牝じゃらし(上)

縦書き表示サービス『 竹取 』
 都内。
 日常の些末をぶちまけたような景色の中に、その場所は存在した。
 風に危ういスカートをなびかせて通り過ぎる自転車だったり、フィットパンツのパンティライン、透けすぎるブラ…そんなものに気を取られてけつまづき、革靴の傷を気にしてみたり。
 あまりにもつまらない退屈な日常と背中合わせにセックスは存在する。

 ビルがあった。住居と事務所が混在する複合ビルの最上階、十二階のペントハウス。しかしそれもバルコニーからはみ出す植栽の緑が目立つぐらいで、誰一人見上げてみようともしなかった。
 そんな場所でのことである。

 夏の夜に住宅地を歩いていると、些末の中に色気が漂うことがある。開け放した暗い窓から女の甘声が漏れてくる。あはん。営みの声にドキリとする。気にもとめない景色の中に生々しい性を見たようで、ふと可笑しくなったりするだろう。
 性とは日常に隠れるもの。昼日中、そのビルの上階でまさかそんなことがされていようとは…性の暗部がそこにはあった。

 特殊な趣向のために造られた広い和室に男女四人が集まった。
 男が二人、女が二人。男たちは顔見知りであったようだが女二人は初対面。胡座をかいて相好を崩し向き合う男たちのそれぞれ隣に、緊張した面持ちの女が二人、正座をして声もなかった。

 閉められた明かり障子が、コンクリートの建物を、まるで数寄屋造りのように演出した。昼下がりの都会陽が障子越しに白くやさしく滲んでいる。

 ピチョン…ピーン…ピチョン…

 部屋の上座。板張りの床の間のようなところに置かれた水琴窟が涼しげな水のしらべを聴かせていた。しかしその風情は見目形だけのもの。小さなモーターで底溜まりから汲み上げた水を落とす現代仕掛け。焼物の水楽器を銘木の板で囲んだ木箱のようなものだった。
 板の間のコーナーに野草を活けた大きな花瓶が置かれてあって、人工の水楽器を巧みに隠していたのである。

 男の一人は白髪が目立ち、五十代の末の方。グレーの背広。細身、細面…一見して立場のある紳士のようだ。名は村上。
 そしてもう一方の男は少し若くて四十代の末の方か。自由人を気取るような生成のコットンパンツに白のポロシャツ。やや大柄な筋肉質。髪は栗色、染めている。青年がそのまま歳を重ねた雰囲気だった。名は岩崎。
 二人とも相手の素性はそれきり知らない。問わないのが粋人たちのルールであった。

 連れの女は、どちらも三十代のはじめ頃。連れだってこういうところへ来るからには男女の仲であるはずだが、女は二人とも取り立てて着飾ってはいなかった。あたりまえの長さのスカート、目立たないスタイル。自宅を出るときのカムフラージュであり、不倫の仲ということだろう。

 用意された密室に四人が揃い、男二人は、肘掛けのあるソファのような座椅子に座り、互いの女を品定めする視線を流していた。
 女二人は座布団に正座をしている。
 年長の村上が自分の女に目を流して言った。
「沙織と言いまして、三十一歳なんですよ」
 岩崎は紹介された女に目を流して微笑んだ。沙織も目で会釈を返した。
 岩崎は言う。「清楚で綺麗な方ですね」…そして自分の連れ合いに横目をやって…「英里子です、いま二十九かな」
「ほほう、二十代とは」
 村上が目を細め、英里子はちょっと首を傾げるように会釈した。
 岩崎が言った。
「この子は結婚が早くてね、こう見えて子供が二人もいるんです。生殖終了。愉しむセックスを覚えはじめた食べ頃というところ」
 村上が笑ってうなずいた。
「なるほどね。この沙織は、まだ三つなんですが一人だけ娘がいましてね」
 男たちに面識はあってもそれほど親しくはないようだった。微妙な距離感。ほとんど他人。そんな間合いが女たちを沈黙させた。
 
 それぞれの男のそばで、女二人は、どちらも伏し目がちに言葉少な。正座をする腿を閉ざし体を硬くしていたはずだ。
 村上が言った。
「では、そろそろ」
「うむ、はじめましょうか…ふっふっふ」
 そして、村上は沙織に、岩崎は英里子に、それぞれ目を向けた。
「立って脱ぎなさい」
「え…」
「おまえもだ」
「…」
 沙織がかすかに「え…」と声を。それで女二人が目を合わせ、それからまた互いに伏し目。これから何がはじまるのか、女たちには知らされていなかったようである。

「…ああ、そんな」
「早くしないか」
 英里子と岩崎の会話を聞いて、それはそのまま村上の意思でもあると悟った沙織が立ち上がり、少し遅れて英里子も立った。
 スカート…パンスト…ブラウス…下着は沙織が黒のレース、二つ若い英里子は青に白い花柄で、二人ともブラとパンティだけの姿にされる。
 男たちは相手の女を見つめている。
「ふふっ…いい体をしている」
 岩崎がほくそ笑む。
「いえいえ、そちらこそ。真っ白で艶めかしい」
 村上がニヤと笑う。
 女たちに声はなかった。心の震えと戦うように息を詰め、年上の沙織の方が心持ち頬が紅かった。
 裸になると若い英里子がわずかにふっくら。けれども沙織は乳房が張る。英里子がCほど、沙織はDほど。二人ともに立ち姿に性臭がまつわりついているようだった。

 女体からブラが消え、二人ともに美しい膨らみの頂点で恥辱の予感に乳輪がすぼみ、二人ともに性の騒ぎが鳥肌となって産毛を乱す。
「よろしい、そこまで」
 陰毛の透けるパンティだけは許された。そしてそこで、男女のペアが入れ替わる。村上が英里子。岩崎が沙織。相手を替えて男二人が座椅子を離れた。

 男たちは麻縄を手に、後ろ手に取った手首を二重縄で縛り、二の腕越しに乳房の下へ、背へ回して一周させて乳房の上へ。
 それを繰り返して乳房の上下を締め上げて、首へ回して乳谷へ縄を降ろし、白い乳肌が血筋を浮かせて飛び出すほど乳谷を締め上げた。
 男たちは縄扱いに長けていた。
 女二人は、縄酔いなのか、初対面の男に縛られながら女体を桜色に上気させ、興奮に乳首を勃ててしまって、せつない息を吐いている。二人ともに傷のない美しい女体であった。
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